『不本意な敗戦 エルピーダの戦い』坂本 幸雄 日本経済新聞出版社
◆敗戦と撤退戦
不本意でない敗戦というものがどの程度あるのだろう。「この敗戦は仕方ない」ともし経営トップが思っているとしたら、それは責任を放棄していないだろうか。本音で思っているとしても、少なくとも部下の立場からは、最後まで諦めて欲しくないと言うのは、日本的過ぎなのだろうか。
一方で、株主の立場から同じことを議論すると、敗戦の弁を述べるくらいなら、早々に撤退を決断してくれた方が傷口が浅くて済むと考える。諦めが早いのは困る。だけど、変に粘られて撤退タイミングを逸してしまうのはもっと困る。経営者を信じて投資するものの、投資家の立場からすると、自身の逃げ場を提供してくれるかどうかは重要は要素だ。不本意な敗戦を語られるのは避けたい。それならば、撤退戦の話の方がはるかにましだ。
いずれにしても、経営者として決断を下したかどうか、そこに主体的な意思があるかどうかを見極めたい。環境のせいにする様な弁は聞きたくない。仮にその勝負が負けだとしても、最後の幕引きの仕方を、経営者の力量として見ている。
◆銀行との関係構築
設備投資が成長を左右する業態の場合、銀行とどの様な関係を構築するかは、時として企業の命運を分ける。
メインバンクをつくる、色々な貸し借り
銀行との付き合い方は、お金に対するスタンスをどう取るかが明確に表れる。信用の積み重ねなので、長期的なスタンスで付き合うべきというのが理想的な付き合い方だと言われる。産業を育成する、企業を育成するといった大所高所の議論ができる気骨ある銀行員も探せばいる。
一方で、預金との両建てを求められたり、期末の追い貸しに付き合わされることもある。グループ会社のクレジットカードへの加入、投資信託の購入等、様々な依頼、要求をしてくる下衆な押し込みも多い。そんな付き合いは不毛だ。だけど、そんな目先のノルマを押し付けてくる銀行員は多い。
◆それでもメインバンクをつくる
色々と銀行への不満は多い。最近は、優越的地位の濫用と取れる話が増えている。グループの証券会社を紹介します。ワンストップで全て面倒見ます。不満を持っている経営者は山ほどいる。それでも、メインバンクは持った方が良い。
なぜならそれは、経営者が最悪を想定した時の最後のセーフティーネット、ラストリゾートにかかわる話だから。本当にしんどい時に、傘を貸してくれるかどうかは分からないし、あてにしない方が良い。
それでも、不本意な敗戦ではなく、意味ある撤退戦をする、持久戦に持ち込む等、自身で経営者が選択肢を持つ可能性を少しでも高める為に、割り切らないといけない、社会の不合理の一つだと最近は思っている。
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必要悪として、銀行との付き合いを位置付ける