溶ける ~ティッシュ王子の懺悔録
ティッシュ王子こと大王製紙の元社長である井川氏の本。
100億円を超える巨額の資金をグループ企業から借り入れ、ギャンブルに費やしていたという。金額もさることながら、大王製紙という上場企業が関わった話ということもあり、興味を持った。
会社が創業者一族から訣別する過程において泥沼化する局面はあったものの、会社自体は破たんすることもなく、そのまま存続している。井川氏は実刑判決を受け服役中。世間では完全に過去の話となっている。
この本は、井川氏個人にフォーカスが当てられている。ギャンブルにはまり込んでいく心境や生い立ち等を振り返るといった記述が多い。一番キャッチーなのは、芸能人等の交友関係についての記載だろうか。西麻布や六本木のバーを中心とした交友。一時メディアを賑わした某歌舞伎役者とかグラビアアイドルの名前が出てくる。特に何もない交友関係の一つと言うが果たして実態は…。と想像力を掻き立てるこの章が、本書のマーケティング上重要な役割を果たしている。そういうボクもそのくだりが気になった。
同時期にエルピーダ破綻に関する坂本前社長の本や山一證券の自主廃業に際しての話を読んだことから、経営者の責任とは…ということを考えてしまった。本書は井川氏個人の話、回想録に様な内容だが、創業者一族の会社への関わり方、資本と経営の一体感や分離、ガバナンスのあり方等を考える際に興味深い示唆に富んでいる。
中期的にはファミリー企業₍オーナー企業₎方の方が業績拡大や企業価値向上に資するとの研究がある。資本と経営が一体化していることから、株主目線での行動が徹底されること、四半期タームの近視眼的な経営とは無縁であること等が理由とされる。
でもそれらは、本書を読む限りは、全てガバナンスが働いていてこそであると言える。一定規模の大きさの組織になり、創業者ではない2代目や3代目経営陣が経営する局面で、果たして自由闊達な組織風土や健全なガバナンスを構築できている企業はどの程度あるのだろうか。程度感の差はあれど、裸の王様と取り巻き連中、一般民衆で構成される会社にならないだろうか。
回想録から一歩踏み込んだガバナンスに対する記述がもう一段あれば、より深く物事を考えるきっかけになるんだろうけど、話題としては読んでも良いかなといった本。
因みに印税が著者に入るのは心理的に抵抗がある・・・と心配する必要はありません。印税は全額社会福祉事業に寄付されるそうなので。
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